倍速視聴と倍速講義に関する土屋文明の考察

倍速視聴に関する私見

2022年12月26日の読売新聞で大学等でのオンライン授業での倍速視聴と倍速講義に関するインタビュー記事が掲載されます。紙面の関係で割愛された内容もありますので、以下に日本史講師土屋文明のオンライン授業での受講生の倍速視聴と土屋文明が実践している倍速講義に関する考察の全文を記載します。読者の倍速視聴に関する疑問の解消と倍速講義に関する理解を深めていただければ幸いです。

結論
倍速視聴とは、情報通信技術の発展や革新的な情報獲得のデバイス・アプリ・サービスの多様化による学生の学びの手段の進化である。

1 倍速視聴は学習効果を高めるか
 倍速視聴により時間に対する情報密度は高まる。しかし、それは時間が圧縮されているだけであり(時短効果)、情報内容には変化がない。よって倍速視聴は効率よく情報内容を抽出する手段として有効である。
 また、いわゆる「速読」による情報抽出では、そのすべてを個人のスキルに依存するがゆえに習得が困難であるが、視覚と聴覚を使った倍速視聴(仮に速視聴と呼ぶ)は、デバイスとアプリによって個人の足りないスキルが補われて成立しているのでデジタル世代には習得が容易である。

◇倍速視聴と学習効果
① 再生速度を上げれば情報の聞き逃しも起こるので学習効果に影響するが(多くの方がこれを心配している)、聞き逃しはノーマルスピードでも起こりうる現象であり、ノートが取れる程度の速度ならば聞き逃しの発生率は通常再生と同じである。つまり、倍速視聴での聞き逃しによって学習効果が低減することはない。

② 許容できる視聴速度には個人差があり、誰もが倍速で視聴できるというわけではないが各自の許容限度に応じた可変速視聴であれば、①同様に学習効果は低減しない。

③ 教育者(学校の先生)との濃密な時間共有を学習効果と結びつけ倍速視聴への不安を語る方も一部おられるが、倍速視聴とは「情報をどのような方法でより効率よく入手するか」という手段の問題であり、「誰から教えてもらうか」という属人的な問題ではない。

④ 倍速視聴の前提となるオンデマンド授業において、聞き逃した箇所を戻って再生することや、重要だと思える箇所を繰り返し再生することが可能なので、単位時間当たりの情報内容の理解は通常授業より高く、その点で学習効果は高い。現在、塾や予備校で行われている受験教育講座の倍速視聴はこれらを目的として行われている。また、知識の定着は反復に比例するので、倍速視聴により生まれた余剰時間を反復などの演習にあてることで学習効果をさらに高めることができる。

2 授業を倍速で行うと学習効果は高まるか。
◇倍速講義と学習効果
① 通常授業を倍速で行った場合、受け手(学生側)は短時間で情報内容を習得できるという点では倍速視聴と同じ学習効果がある。
しかし、そもそも倍速視聴は、発信者(教育者側)の緩慢な授業によって単位時間あたりの情報量が少ないから行われている手段であるので、自らの緩慢な授業を倍速にするのではなく、通常速度でも短時間で受け手(学生側)が情報抽出をしやすい授業の内容や構成を考えるべきである。 したがって、倍速視聴をさせないスライド挿入などの授業工夫は、緩慢な授業を延命したいだけのきわめて幼稚な「嫌がらせ」であることに発信者側は気づくべきである。

② 緩慢な授業そのものが学生のストレスだとすれば、その授業を倍速にしたことで許容できないストレスが発生して視聴意欲すら失い、かえって学習効果を低減させる可能性がある。

3 日本史講師土屋文明はなぜ倍速講義によって学習効果(合格者)を出せるのか。
代ゼミの合格者の声のページをみると、日本史講師土屋文明の講義の評価に関して、「情報量が多いのに丁寧」「情報量が多いのにわかりやすい」「講義形式なのに実戦的」「情報量が多く網羅的」「情報量が多いのに効率的」「情報量が多く、実戦的なのに日本史嫌いな人にもお勧め」「90分があっという間」といった、一読すると矛盾する記述であふれている。

◇日本史講師土屋文明の倍速講義と学習効果
土屋文明の講座(詳説日本史講義)では、1回の講義に、当該箇所の情報内容だけでなく、参考書や教科書による補足学習・史料(資料)確認・語句の暗記・問題演習・形式対策・大学別対策がすべて含まれている。オールインワンの講義である。もちろん、単位時間あたりの情報量は莫大なものとなり、普通に倍速で講義をしても、学生は情報の波に飲み込まれてしまう。

そこで、単位時間あたりの学生が許容できる情報量の限界を割り出し、その情報量を1回の授業で教えきれるように授業速度を上げている。土屋文明は倍速講義で時間を圧縮しているのではない。受験に関するすべての情報内容をプロット(構成要素)でくくり、単位時間で完結できるように圧縮しているのである。

つまり、一つの情報と関連情報を引き出しやすいように無駄をそぎ落とし(=圧縮)、情報と情報に存在する隙間をなくして情報密度そのものを高めているのである。もちろん、授業後に圧縮された膨大な情報量を解凍→再現する必要があるため、プロットのアウトラインをまとめた再現ツール(情報整理マップ=サクナビクス)に授業中に書き込みを加えさせて、各プロットの因果関係から全体のシナリオを学生が復習の際にイメージできるようにしている。こうして各プロットごとに強い満足感や達成感を得た学生は、その学習に費やした一定の時間すら体感でリセットされ莫大な情報量がある90分の授業そのものを「あっという間」と感じるのである。

そのため土屋文明の授業が一部学生の間で「神速」と呼ばれている。緻密に計算された土屋の授業構成およびその授業は模倣不可能の領域にあり、それゆえ倍速講義を多くの「生身の人間」が行うことはないだろう。

しかし、多くの指導者に忠告しておく。生身の人間が行っている教科教育の大部分は、受け手(学生)の嗜好を反映したアバターや合成音声、AIを駆使した教育教材で代替可能であるばかりか、展開される効率かつ効果的な教科教育は地域や収入による教育格差も解消してしまっている。教科教育に「教師」は必要のない時代は既に到来している。倍速視聴する学生の目には、教科教育者は映っていないのである。

日本史講師 土屋文明